2025.11 icoi Lounge MUSIC コラム
冬の手前とピアノの余韻
北海道の11月は、冬の入口。
コートの襟をきゅっと立てて歩く帰り道。色づいていた街の景色は、そっとモノトーンに変わりはじめます。そして気づくのが音が、いつもより澄んでいること。
音は空気の振動。空気中の水分が少ないほど振動の“にごり”が減って、音の輪郭がくっきり耳に届きやすいと言われています。だから、乾燥した季節のピアノの余韻や足音は、すっと冷たい空気を滑っていくんですね。
住宅の作りも、声の響きに影響します。石造りが多いヨーロッパでは壁が音をよく返すため、残響がゆっくりと伸びていく。 だから、声のトーンは自然と落ち着き、会話もゆったりとしたテンポになっていきました。一方、日本の家は湿度の高い環境に適応した木造。音を吸い込みやすいから、声は張り気味で軽やかに。環境が声を育ててきたのだと思います。
白い息がふっと立ち上るたび、そんな“響きの季節”を感じる11月。
今月の1曲は、ジェイミー・カラムが歌う「High and Dry」。
メジャーデビュー前の2002年、アメリカのジャズ・レーベルからリリースしたセカンドアルバム『Pointless Nostalgic』に収録されているRADIOHEAD「High and Dry」のカバーです。アコースティックギターの響きが印象的な原曲を、彼はピアノの憂いと温度をまとわせて繊細に再構築しています。
静けさが研ぎ澄まされる季節だからこそ、音の隙間までも、美しく響きます。
静寂が“次の季節”をそっと知らせてくれるこの時間は、街の光が灯りだす少し前、耳に訪れるささやかな予告編なのです。
コートの襟をきゅっと立てて歩く帰り道。色づいていた街の景色は、そっとモノトーンに変わりはじめます。そして気づくのが音が、いつもより澄んでいること。
音は空気の振動。空気中の水分が少ないほど振動の“にごり”が減って、音の輪郭がくっきり耳に届きやすいと言われています。だから、乾燥した季節のピアノの余韻や足音は、すっと冷たい空気を滑っていくんですね。
住宅の作りも、声の響きに影響します。石造りが多いヨーロッパでは壁が音をよく返すため、残響がゆっくりと伸びていく。 だから、声のトーンは自然と落ち着き、会話もゆったりとしたテンポになっていきました。一方、日本の家は湿度の高い環境に適応した木造。音を吸い込みやすいから、声は張り気味で軽やかに。環境が声を育ててきたのだと思います。
白い息がふっと立ち上るたび、そんな“響きの季節”を感じる11月。
今月の1曲は、ジェイミー・カラムが歌う「High and Dry」。
メジャーデビュー前の2002年、アメリカのジャズ・レーベルからリリースしたセカンドアルバム『Pointless Nostalgic』に収録されているRADIOHEAD「High and Dry」のカバーです。アコースティックギターの響きが印象的な原曲を、彼はピアノの憂いと温度をまとわせて繊細に再構築しています。
静けさが研ぎ澄まされる季節だからこそ、音の隙間までも、美しく響きます。
静寂が“次の季節”をそっと知らせてくれるこの時間は、街の光が灯りだす少し前、耳に訪れるささやかな予告編なのです。