2025.10 icoi Lounge MUSIC コラム
赤とオレンジの、ちょっと特別な秋
秋は、他のどの季節よりも「色」で認識される季節です。春は花、夏は空や光、冬は雪や静けさが季節の主役。ですが、秋だけは――木々そのものが語りはじめます。
欧米など、世界の多くの地域では、秋といえば収穫や実りの「食べ物の色」です。
かぼちゃ、りんご、ぶどう、小麦、柿……テーブルの上に並ぶ赤やオレンジ、黄金色が季節を象徴します。それは「成熟した実りを分かち合う」色であり、人々はその色を飾り、灯し、祝ってきました。一方で日本では、秋の色といえば何よりも紅葉の色です。樹々そのものが燃えるように染まり、山々が静かに季節を知らせます。古くから「紅葉狩り」と呼ばれる風習があるように、日本人は秋の色を「自然のうつろい」そのものとして味わってきました。北海道の紅葉予想マップや紅葉カレンダーを見ると、季節の進行が「緑 → 黄 → 橙 → 赤 → 茶」といった色の段階で示されていますよね。春や夏の移ろいが“時間”や“気候”で感じられるのに対し、秋はまるでパレットの上で描かれるように、色そのものが季節の歩みを教えてくれます。
北海道の秋は、その両方の色が混じり合う特別な季節です。
北欧のような黄金色の森と、日本的な深い紅が共存し、澄んだ光のなかで幾層にも重なります。10月になると、色のグラデーションは山の上から少しずつ麓へと降りてきます。ナナカマドの赤い実、カエデの深紅、イチョウの黄金色――視覚心理学的にも、人間の網膜は赤とオレンジの波長に強く反応するといわれています。だからこそ、秋の色は視覚に深く刻まれ、記憶にも残りやすく、心を惹きつけるのです。無意識のうちに、わたしたちは街や山に広がる色の変化を――“目で聴いて”いるのかもしれません。
今回の1曲は、そんな10月の「色のうつろい」に寄り添う一枚、ジャズシンガー Mark Murphy、1968年の名盤《Midnight Mood》を選びました。深い夜の空気に溶け込むような、円熟味あふれるジャズ・ヴォーカル。闇の中にふわりと浮かぶオレンジが、大人の時間を静かに照らします。
樹々の赤も、果実の赤も。秋は、色に包まれて、恵みを味わう。大人のちょっと特別な季節です。
欧米など、世界の多くの地域では、秋といえば収穫や実りの「食べ物の色」です。
かぼちゃ、りんご、ぶどう、小麦、柿……テーブルの上に並ぶ赤やオレンジ、黄金色が季節を象徴します。それは「成熟した実りを分かち合う」色であり、人々はその色を飾り、灯し、祝ってきました。一方で日本では、秋の色といえば何よりも紅葉の色です。樹々そのものが燃えるように染まり、山々が静かに季節を知らせます。古くから「紅葉狩り」と呼ばれる風習があるように、日本人は秋の色を「自然のうつろい」そのものとして味わってきました。北海道の紅葉予想マップや紅葉カレンダーを見ると、季節の進行が「緑 → 黄 → 橙 → 赤 → 茶」といった色の段階で示されていますよね。春や夏の移ろいが“時間”や“気候”で感じられるのに対し、秋はまるでパレットの上で描かれるように、色そのものが季節の歩みを教えてくれます。
北海道の秋は、その両方の色が混じり合う特別な季節です。
北欧のような黄金色の森と、日本的な深い紅が共存し、澄んだ光のなかで幾層にも重なります。10月になると、色のグラデーションは山の上から少しずつ麓へと降りてきます。ナナカマドの赤い実、カエデの深紅、イチョウの黄金色――視覚心理学的にも、人間の網膜は赤とオレンジの波長に強く反応するといわれています。だからこそ、秋の色は視覚に深く刻まれ、記憶にも残りやすく、心を惹きつけるのです。無意識のうちに、わたしたちは街や山に広がる色の変化を――“目で聴いて”いるのかもしれません。
今回の1曲は、そんな10月の「色のうつろい」に寄り添う一枚、ジャズシンガー Mark Murphy、1968年の名盤《Midnight Mood》を選びました。深い夜の空気に溶け込むような、円熟味あふれるジャズ・ヴォーカル。闇の中にふわりと浮かぶオレンジが、大人の時間を静かに照らします。
樹々の赤も、果実の赤も。秋は、色に包まれて、恵みを味わう。大人のちょっと特別な季節です。